丁丁はアーケードの一番街と二番街の間にある。
店の前にぶら下がっている大きな赤い提灯はただの飾りじゃなくて夜になるとちゃんと光る。
提灯が光っているのはいい。
つい惹かれてしまうところを考えると
わたしも光に集まる虫たちと同じだなあと思う。
店に入って窓際の席に座った。
窓には大連の写真と青島ビールの空瓶が並べられている。
ホール担当のおじさんはテキパキ動きながらたっぷりお茶の入ったティーポットを運んでくれる。
忙しいときは声をかけづらくなるので、そこですかさず晩酌セットを注文した。
「もう決まったのお!はやいネ〜」と誉めてくれた。
そうして、すぐに瓶ビールを与えられたわたしは窓際という身分相応な席でご機嫌だった。
ザーサイもすぐに持ってくてくれた。
おじさんの声はよく通る。さらに陽気だ。
おじさんはわたしとは反対側の席にいる二人組にすごくしゃべりかけていた。
そうして、ひと通り世間話をし終わると「中国いったことある?ぜひいってね、報道とは全然違うから」みたいなことを明るくいっていた。
本当にそうだ。
想像を超えてくるのが中国だった。
実はわたしが初めて行った海外が大連だった。
中国の友人が案内してくれたのだけれど、
星海広場で空中ブランコに乗ったり、ロシア人街で怪しい土産物屋や野外映画の会などに出くわしたり、ケンタッキーでお粥を食べたり。
特に、大きな通りを車の隙をついて走り抜けて横断するのは痛快だった。
通りはクラクションが鳴り響いていて、たくさんの車が猛スピードで無秩序に走っているようにみえた。
とにかく自分の身の安全のために信号機なんてあてにしなくてもい。
わたしはそこで深呼吸できた気がする。
少なくとも10年前の大連は全体的に寛容というか気楽な空気に満ちていた。
だから、おじさんがいいたいことはよくわかる。
そう思いながら、わたしは水餃子をどう食べたら1番美味しいか研究していた。
晩酌セットの餃子は焼き餃子か水餃子か選べる。
その日は一皿に8個あるようにみえた。
水餃子はぷりぷりでそのままかぶりついたら確実に爆発する。
やけどはしたくないし、中のスープをみすみす床や壁に飛び散らせるのはけしからない。
すべて飲み込まなければ。
6個目くらいで落ち着いたのは
れんげの上ではじっこに少しだけ穴を開けて中のスープをこぼすことなくすするという食べ方だった。
なにもつけなくてもおいしかったのでぱくぱく食べてしまったのだけれど、最後の一個でお醤油を少したらしてみたら、これがとてもおいしかった。
わたしが水餃子の食べ方を確立した頃、二人組は帰っていった。
おじさんは両手で下げものを抱えながらわたしのほうに一瞬顔を向けると
「よくしゃべるでしょ?」
とだけいって厨房に消えていった。
ー 晩酌セット ¥1,600 -
● 瓶ビール中瓶(サッポロ赤星)
● 餃子一皿
● ミニ炒飯
● ザーサイ
残り
¥6,050 - ¥1,600 = ¥4,450